nobody hurts

September 30, 2010

20100930 (a)

一枚の窓硝子により絶えず裏返り続けている無数の部屋。



硝子の椀ですくい出した雨水と、雨水で体を流している足音と、足音の背中に光る雨の粒もしくは足音の背中で雨をしている光りに見とれている靴紐と、時間を流れていく空の青と、空の青を流れていく一枚の窓硝子と、一枚の窓硝子により絶えず裏返り続けている無数の部屋。


港町と、人声と、人の形の声と、人の形をした声を追い掛ける叫びや呟きと、体の内側のかたちの目の前と、体の外側のかたちの誰かの目の前と、目の形をしている体と、口のなかで転がしている目玉と、口の中で転がしている光りと、一滴の雨粒が落ちてくるのをじっと見上げて待つ靴紐。


端子と、接続と、通信と、声と、受話器と、耳と、鼻歌と、可聴域の物語と、曲線みたいになっている音楽と、もしくは直線を曲線のようにおいかける力を持った目と、その目を追いかけ続ける精神力を備えた目の観測者と、もしくは視界そのものである観測者と、背筋を伸ばす外の人。

September 29, 2010

20100929 (a)

足音。



写真と、写真のなかの景色と、景色から切り抜かれた写真と、映像の記憶に被さる音像の記憶と、例えば写真から聞こえてくる音と、もしくは写真が最後まで黙っていることに決めている秘密と、もしくは写真に対して黙っていることと、写真のかわりにじゃないけどと喋り始めている足音。


積み重ねられた荷物と、もしくは裸でも運んでいる荷物と、時に荷物みたいに微笑むその表情と、時に荷物みたいに頭に乗っている髪型と、荷物によって荷物のためにではなく鍛え抜かれてきた体と、その体を通して鍛えられてきた頭と、より柔軟な知恵を体に期待している頭。


より柔軟な知恵と、空気で出来た荷物鞄と、空気をまとう訓練と、空気をまとっているかのように踊る訓練と、もしくはまとわれた空気のように踊る訓練と、空気との緊張を求める呼吸と、空気との和解を先延ばしにする呼吸と、薄く濃く澄ました体内の空気を重力と協調させている足音。

September 28, 2010

20100928 (a)

常に記憶のそとにある足音。



雨水で満ちた海と、雨水の海に雪が降る日の航海と、雨水の海に雪が降っている絵葉書と、雨水の海に雪が降る絵葉書を送る習慣と、雨水の海に雪が降っている絵葉書の印刷所と、競合会社に複製される絵葉書の心象と、複製版では決して海を満たしていなかった雨水。


複製された心象のなかで生まれ育ちそれを再編集することを学ぶ靴紐と、その途中で見つかる編集された心象やその複製やその元本や、複製されたものの元本として導き出される靴紐と、複製と編集の作法を精製して作られたものさしと、そのものさしの上に並ぶこれらの文章。


ご多分に漏れず複雑に積み重ねられた平坦な戦場と、その異様な密度と、その密度こそが真の戦場であるというような平坦な戦場と、観測と実戦のあわさる場所でいつも記憶の一歩先を歩いている誰かと、そのようにして常に記憶のそとにある足音。

September 27, 2010

20100927 (a)

雨を挽いていた足音の睫毛。



雨でできた海を漂っていた客船と、その看板で新聞を読んでいた靴紐と足音と、珈琲から上る湯気に導き出された視線の先の雲と、その雲によって繋がれた雨の水槽の部屋と、降ることによって形が分かれた雨と、雨水で満たされた海と、もしくは雲一つない雨水の空。


街区と、番号と、酒場と、酒場の奥の鍵盤と、誰もいない夜には雨だれが鍵盤を叩く音で満たされる店内と、店内を満たす内装の木の匂いと、その木と同じ木材でできた店主の算盤と、その木と同じ木材でできた盤と駒と、もしくは盤と駒ではないのに勝手に盤と駒であるとされたもの。


雨で割った酒を飲んでいた靴紐と足音と、二人が酔い覚ましに飲んだ雨水で淹れた珈琲と、雨を挽いていた足音の睫毛と、朝の蒸気と、水滴と、鉄材と、工業と、賃貸と、駅の売店と、二番線か五番線か八番線と、鉄道と、暗いけど絢爛な構内と、無関係そうに静かでも喧しくもない車内。

September 26, 2010

20100926 (a)

窓の外の当たり前の街道を漂っていく客船。



いつかは雨の水槽の部屋に漂着するであろう客船と、混乱のなかで避難が済んでいる船内と、もしくはその雨の部屋を格納して漂流を続けようとするかもしれないその船と、あるいはその船の外壁を通り抜けてそれを回避する雨の水槽と、窓のそとの当たり前の街を漂っていく客船。


いつかはその客船に乗っていたという記憶がある足音と、いつかはその船が出港するのを灯台から見送っていたことがある靴紐と、もしくはその客船の客室であったかも知れないその雨の水槽の部屋と、客船の乗務員がその部屋の扉を開けた時に流れ出すであろう大量の雨水。


恐らくはその雨水のせいで機関の故障に見回れた客船と、そして恐らくは単に避難し遅れただけの靴紐と足音と、ふたたび扉を閉ざしてその客船のことをすっかり忘れてしまうまで雨水のなかで生計を立てていた二人と、その部屋がいつか流れついた重なった建物に一週間か何度か降る雨。

September 25, 2010

20100925 (a)

程よい静止を見定めて張り詰めない皮膚。



服を通して皮膚に張り付く雨と、家具を通して部屋に張り付く雨の水槽と、窓から射し込む光りを通して壁紙に張り付く雑誌の切り抜きと、昨日から射し込む光りや闇がごたまぜになって目の前の記憶を通して瞬間ごとに体に張り付く歴史の最末端と、一日の毎日が一生を変えるような一日。


動かない皮膚と、できる限りゆっくりと動いている皮膚と、つまりは程よい静止を見定めて張り詰めない皮膚と、その皮膚を撫でるちらちらと揺れる光と、水槽の部屋の場面の背景音楽と、ここもまた雨に満たされていた舞台裏と、機材の電源から時折走る稲光と、現場で慌しい撮影班。


足音はそれまで自分が静止していた事を皆に伝えるかのような作法で静止を止めたのですと伝える雑誌の見出しと、その意味では足音はまだ静止しているとも言えますしそれは足音自身が自分がまだ静止していることを伝えるような作法で破られなければならない静止なのですと続く記事。

September 24, 2010

20100924 (a)

靴紐と足音。



互いが互いにとって存在しないというような伝説の二人と、異国の田舎茶屋の軒先で涼みながら雨の水槽となった部屋を考えている二人と、雨水で淹れた珈琲と、ねえ今度はその珈琲のなかで溺れている私たち二人のことを考えてるんでしょうとそこにいない靴紐に対して呟いている足音。


二人が溺れている雨の水槽の窓のそとに広がる普通の世界と、白い壁と様々な原始的な装飾と、口から泡が漏れる音に被さる屋外の物音と、記憶によれば記憶に属するもののように思われる様々の生活音と、さっきから扉を叩いている宅配業者と、水圧できっと開かないと分かっている扉。


目の前の記憶と、目の前の記憶とともにここで呼吸をしているものと、雨の水槽となった部屋に浮いている珈琲の椀を満たしている珈琲の色をした光りの影と、珈琲の色をした光りの影を口に含んで獣の四つ足で立っている足音と、大体いつも足音に見とれている靴紐を快く無視する足音。

September 23, 2010

20100923 (a)

口の中の空気と身を寄せ合って。



水のなかで生計を立てている靴紐と足音と、口の中の空気と身を寄せ合って空気だまりを探している靴紐と、窓から差し込む九月の太陽光と、その光りに色付けされた雨の水槽と、雨の屈折率のなかで余りにも遠く離れた窓と寝椅子を視線の角度で近づけようとする足音。


何度も雨みたく降りながらも空を目指す足音と、自分が降って出来た水たまりに映った空を目指す足音と、自分が降って出来た水たまりに映った空を幾度も砕く足音と、室内の一角の個人的な密度と、雨の水たまりの水槽のありふれた重力と、重力の方向と、重力のせいではない雨。


茶碗ですくった雨と、その茶碗にどこからか一滴の落ちる波紋と、建物の共用部の名残りである中庭の吹き抜けから見上げる青い空と、茶碗ですくった一滴の雨と、その一滴がそれ自身のうえに波紋を走らせる内側からの木霊と、まるでそれ自身の記憶を持つかのような建物の内装。

September 22, 2010

20100922 (a)

人生でなかろうが本当ではなかろうが。



明日から後ろを振り返っているような一日と、その一日を後から振り返っているような一日と、もしくはそのような一日を思い浮かべる数秒の時間と、ある数秒をその数秒の内側からすでに後悔しているような諦めの良さと、部屋に貯まった雨の水で靴紐の分を溺れている足音かもしくはその逆。


雨の水に満たされた室内で一滴と、一滴の部屋と、一滴の部屋と気泡と、一滴の部屋のなかで家具が傾いた加減で出来た空気だまりと、空気だまりくらいの空間しか本当は使わないのにと考える靴紐と、空気だまりから出たら溺れてしまうような生活をしていたのかしらと考える足音。


結局はいつもどの日も他の日の分も濡れているのだから人生ではなかろうが本当ではなかろうがすでに前払いが済んでいるみたいな雨の日の情緒と、別に人生だろうが本当だろうが作り物に感じる隅まで行き届いた一瞬の情緒が長持ちはしない寝椅子から窓までの距離。

September 21, 2010

20100921 (a)

腹が減ったとぼやきよく冷えた茶を飲む。



ある二重に重なった建物のなかで重なっている靴紐と足音と、同じものを見聞きしながら決して同じ一人ではありえないその二人と、二人の重なった視界と、二人の見ている決して重なってはいない対象物と、靴紐が腹が減ったとぼやいているときによく冷えた茶を飲んでいる足音。


目から視界が溢れてしまったような光景と、この世の終わりか始まりか続きと、一段ずつ上る暗い階段と、少しずつ近づいてくる声と、近づいてくる声とは対照的に遠ざかって行く物語と、地下にあるのか地上にあるのか最早判然としない階段と、寝心地の良い寝椅子で砂菓子を食べている足音。


砂で出来た菓子と、いつかは曼荼羅を描いていたその砂と、いつかは足跡の残した溝であったその曼荼羅と、いつかは寝静まった旧市街のようであったその足跡の溝と、溝を崩すようにぱらついていた雨と、雨の音と、雨の音を聴いている足音と、そこに音楽であった音楽を探している靴紐。

September 20, 2010

20100920 (a)

"I haven't got good at wasting ten years of my lives.
It does sometimes seem I have."
- Nicoli Binara



通りを透かして見上げる空と、少し遠くで跳ね返っている音と、何通りも透かして見上げている空と、一瞬の空と、だいたいの地面と、靴紐が右手で触れている壁と、足音が親指で押さえている壁の塗装の剝げかかった箇所と、伝説の二人がそれぞれ一人ずつでしか存在し得ない場面。


曇り空を猫背で支えている靴紐の黒目と、無音と出音のまだらを下顎に乗せて均衡を保つ足音と、空を映し出している灰と茶とその他の色の温度で一夏かけて冷やされた石畳と、潮騒と汽笛と、排気孔に縫い合わされた建物と、排気口からはみ出ているその建物に重なるまた別の建物。


排気口により縫い込まれた一つの建物に重なるまた別の建物と、その二つの建物の中や外で可能な全く同じ景色と、そのひとつの建物の外で可能な足音と、そのもうひとつの建物の外で可能な靴紐と、二人がどうにか互いを見つけ出すための努力をすることのできる重なった建物。


September 19, 2010

20100919 (a)

その伝聞がまた繰り返されたりするのを好む趣味。



虹を一言で言い表せる色の名前と、ある時代に生きる複数の世代をひとくくりに言い表すことのできる賢い名前と、犬と猫を一言で言い表す名前と、誰かと自分を同時に言い表したりそれによって誰かに自分と同じ何かを代表させることのできる名前などはありませんという付箋など。


付箋から目を上げて室内の眠気を探っている足音と、本に目を落として文中の静けさを測っている靴紐と、おそらくは同じ部屋における違う時間の光景と、もしくは同じ時代に於ける違う場所の光景と、もしくは同じ時代の同じ光景の同じ光景の出来事の違った可能性の中か外での出来事。


録音技術と再生の習慣が可能にしてきた共有されている光景とされる懐かしい光景と、伝聞系の文化と、その伝聞と体験がどうも妙な具合で結びつく夏や夜と、その伝聞がまた繰り返されたりするのを好む趣味と、足音か靴紐の寝椅子の枕もとで再生されている圧縮音源の熱い実況ぶり。

September 18, 2010

20100918 (a)

それを鳴らす音質のように分厚く切れがよく自覚的な音楽。



秒刻みの消滅の中で誰かと誰かが出会い直す街角や角部屋と、そこで鳴っているそれを鳴らす音質のように分厚く切れがよく自覚的な音楽と、消滅の復習に対して支払ってきたここ数十年の過剰と、もしそれが代替不可能な何かなのならばそれを代替可能に変えるというお仕事。


音質の冒険と、たとえば靴紐のそれと、常に靴紐の冒険に追従する足音の冒険と、常にかくのごときに語られる物語と、ある種の物語とともに生み出されたようにも見える靴紐と足音が決して互いを知らぬような物語を共にいることにより編んでいるというような疲れる事柄。


いつも靴紐の退出をうながす足音と、いつも足音の退出をうながす靴紐と、いつも靴紐の退出を予期している足音と、いつも足音の退出を予期している靴紐と、二人が二人の記憶のために志す歯車のような機関と、記憶されていない二人を駆動させている記憶されている二人。

September 17, 2010

20100917 (a)

「消滅を待たないで」



いつも最終章の前章で落ち合う消滅を待たないでという声と、言い換えれば自分の消滅をその目で確かめてという声と、つまりは消滅する前に何がそこにあったのかを今確かめてという声と、録画中と示されているのかそれとも録画中止と表示されているのか定かではない枠内。


鼻で笑っている読者と、例えばあの隊商の娘と、あの娘がこれを読んでいる任意の昼の酒場の任意の空気感のなかに並ぶ任意の夜の任意の冷たさを余りにも白々しく長いあいだ吸い続けた座席と、純粋に情動と処理能力のための常套句と、それと同じ目的で書き連ねられている断章。


また月明かりの届かぬ酒場の奥の夜と、寝過ごしたまま花束のような夜の中心でふと目を覚ました娘と、娘とは全く無関係の場所で咲いているその花を思い描いているのか思い出そうとしているのか分からなくなったときに吹き込んだ風と、窓の外で地上の夏が消滅の試算を行っている枠内。

September 16, 2010

20100916 (a)

この曲の名前を知っている誰か。



この曲の名前を知っている誰かと、この曲の名前を知っている誰かの名前と、この曲の別名を知っている誰かと、この曲の別名を知っている誰かの別名と、この曲の別名であるかのような誰かと、ということはこの曲であるかのような時もある誰か。


この曲のなかに住んでいる誰かと、それと同時にこの曲のなかには住んでいるはずのない誰かと、この曲のある種の作曲法であるかのような誰かと、この曲に偶然を期待し続けている誰かと、この曲に何かの必然を次々と探す誰かと、この曲の幻聴であるかのような誰か。


この曲を歌うのが上手そうな誰かと、この曲を聴くのが上手そうな誰かと、この曲をかけるのが上手そうな誰かと、この曲に合わせて踊るのが上手そうな誰かと、この曲を書くのが上手そうな誰かと、この一曲しかないというのにいつもこの次の曲の中にいるように見える誰か。

September 15, 2010

20100915 (a)

何を原因にして何を結果とするか。



憂鬱の練習と、愛想が尽きる暇もない本番と、憂鬱の練習中の本番と、本番中の憂鬱と、社会化された憂鬱と、索引の作られた憂鬱と、郵便番号のような憂鬱と、電気信号のような憂鬱と、洗濯物が乾いていくみたいな憂鬱と、憂鬱である幸福と、憂鬱さのない憂鬱。


空を落ちるぎりぎりの花びらがいずれ水面に出会って濡れる時に知らされる不愉快な調和と、その描写を視覚化する視力の煩わしさと、単に経験が繰り返しているような気がしてならないという平衡感覚のない常套句的な実感と、どこまでを反復としてみるかという話し。


月光に透けている空の浮島に一瞬重なりながら空中でその身をひるがえすぎりぎりの花びらと、通過する列車に煽られて今度は弾かれるように宙に巻き上げられる花びらと、その動きの密度に迫ろうとしているそれぞれの描写や説明の密度と、何を原因にして何を結果にするかという話でもある話。

September 14, 2010

20100914 (a)

静止が静止している度合いを一言で言い換えて行くこと。



風に吹き流された目の前の景色と、風として吹き流されている目の前の景色と、目の前の景色に吹き流されている風と、風通しのいい体と、透き通るほどに見渡しのよい心と、終の住処と、言い様のない幻滅と、幻滅としか言い様のない別の何かと、線路に立って列車を待っている隊商の娘。


風の歌にも似たその年のある季節からある季節の変わり目と、曲がり角を曲がればすぐそこにあるはずの酒場と、坂を上るとそこにある半ばと、そこで待っているとてっきり信じ込んでいたものと、もしくはそれがもういなくなってしまったことのその理由に納得している人体にも似た身体。


保たれていた予感と、予感として保たれていたものと、状況の遷移を仔細に追いつづける文体と、静止が静止している度合いを一言で言い換えて行くことと、描写により状態の新しさを更新していくことと、目蓋の動きによくにた唇と、唇のかたちをしている文字。

September 13, 2010

20100913 (a)

収録と放送と再放送。



どこかにあるはずの折り目をいつしか見過ごしていた日々と、常に折り目として立ち続ける身体と、隣り合わせを幾度も擦り抜け続けた余裕の瀕死と、絶対に生き延びると貨物列車のくらがりで息を殺している隊商の娘と、娘が娘自身が消え去る可能性の記憶だけを最後まで持ち続けるということ。


外部にも内部にも存在しうる消失の可能性と、娘のなかで誰かの何かを思い出さなくなったときに参照されなくなるような一点と、その一点が含んでいる娘のかけらと、永遠に消失しながら永遠に蓄積しつづける消失の蓄積と、その体感速度と、船酔いしてると気付くための少し長い時間。


船酔いに気分を同調させてひとまず正気といってみることと、規則性のない運動に不規則な運動をぶつけて何らかの規則をさだめていくことと、不規則性の規則を書き足していくことと、規則性で切り取った渾沌なら収録と放送と再放送が行われていることと、それがどうしたってこと。

September 12, 2010

20100912 (a)

風穴に咲いた花。



二人分凍えているひとりと、一人分凍えているふたりと、風穴に咲いた花と、もしくは風穴という種と、風穴の受粉と、風穴から風穴を巡っているようにも思える銃弾と、一日のことを何千年もかけて消化しているうちに空を巡り始めていた浮島と、完全さを代償として支払った進化。


もしくは風穴に流れ込んだ夜風で淹れた珈琲と、目蓋に流れ込んだ夜風でさらさらと流されていく一日の記憶と、誕生日を知らない隊商の娘と、でもあれでしょという言葉と、誕生日を知らなかったら一年のどの日も誕生日である可能性があるわけでしょというどこかで聞いたような台詞。


お名前をうかがってもいいですかと赤子の名付け親になる前に赤子にそう尋ねるのを習慣にしている男と、この子供の名前は匿名にきまったぞと朗々と響く名付け親の男の声と、それ以来行方は全く分からないものの確実にわたしたちのひとりではあるその赤子。

September 11, 2010

20100911 (a)

見えているものを見えないものとして
見ているうちに見えなくなった目蓋。



空の浮島と、浮島のどこかにある花瓶から一滴ずつ溢れて満たされていった今の海と、そしていまも浮島から一滴ずつ零れ落ちる水滴と、一滴ずつ降る雨と、時には隊商の娘の頭におちることのあるその一滴の雨と、今もどこかを飛んでいる銃弾に撃ち抜かれることを夢見ている一滴の雨。


降り止まない雨とも言えるその一滴ずつの雨と、海となり雲となりいまのすべての雨の源でもあると言えるその一滴の雨と、 その一滴ずつの雨が溢れている花瓶に活けられている花と、空が活けられてもいるとも言われるその花瓶と、もしくは浮島それ自体だとも言われるその花瓶。


見えないものを見えないものとして見たいと打ち明ける娘と、それをいったらいま自分に見えているものが全部見えるようになったら何が見えてないんじゃないか分かるのではないかしらと付け加える娘と、見えているものを見えないものとして見ているうちに見えなくなった目蓋。

September 10, 2010

20100910 (a)

あるひとつの花瓶から溢れたいまの海。



もう片方の目と照応しない片目と、もう片方の耳と照応しない片耳と、もう片方の脳と照応しない片脳と、もう片方の方向と照応しないどちらか片方の方向と、この理屈と照応しない方向の理屈と、さらにその理屈とも照応しない方向の理屈と、何かに照応しているこれらの理屈。


耳許に月を許す角度と、口元に笑みを許す角度と、その笑みに照れを許す角度と、その角度に構図を許す架枠と、その架枠に静止した波紋のような余韻だけの動きを許す角部屋の角と、誰かの笑みが波紋のように寄せた結果として油断も隙もない角部屋の角として両手を広げている直角。


血まみれの花みたいな朝露の庭園ともしくは花がじっとりと汗ばんでいるみたいな屋外の温室と、あるひとつの花瓶から溢れたいまの海と、その海を新たにすくいあげて体内で蒸留させて咲く花だとかもしくは空に咲く雲の花と、海が本来その青さを反射している雲一つない空の青い花。

September 9, 2010

20100909 (a)

死んだ記憶のふりをして今日も生き延びている娘。



地平線の彼方へ消えゆく線路を見送っている後ろ姿を背負っている感情と、その先に向けていつからかいつまでも伸び続けている線路と、その後ろ姿に感情として繋がっているはずのやはりどこまでも続いているはずの見えない線路と、その線路を通り過ぎる列車を待っている娘。


いつも口笛の先にある爪先と、爪先のさきにある視線と、つまりは視線である線路を走り過ぎていく列車と、その列車に紛れ込んでいまは毛布をひっかぶって眠ったふりをしている死んだ記憶の持ち物を漁っているような日々と、死んだ記憶のふりをして今日も生き延びている娘。


死んだ記憶の持ち物をまといながら今までになく生命を帯びている隊商の娘と、地平線の上に浮かぶ白い月と星の幾つかを目指して今は空の浮島をはっきりと頭上に据えている風速の主と、埃っぽい清潔な荒野と、水筒と、娘の体と、水筒の蓋と、娘の帽子。

September 8, 2010

20100908 (a)

靴紐や旅行鞄の紐が巧みに織り込まれた手編みの街。



真綿の雲と、水溶性の空と、話し声や排気音や動物が息を吐く音で編まれていく音楽と、それ自身に耳を澄ましているかのような音楽と、拳の地面と、地面がほどけたみたいな熱気と、街の熱気で編み物をしている隊商の娘と、靴紐や旅行鞄の紐が巧みに織り込まれた手編みの街。


手編みの街の編み目に指を入れて光りを導いている娘と、光りを照らす光りと、街の光りを照らす夕陽と、凍った雲を色だけで温めている空に沈みながら溶けていく太陽と、反復から自由になった一日の繰り返しと、反復から自由になった一秒の繰り返しと、自由な反復を貫いている一人。


幾年にもわたって反復を定義し直している娘と、未定義の反復と、反復のなかに反復が織り込まれているというような無限回数の反復と、たった一度しか繰り返したことがないというな反復と、これからもう一度だけ繰り返すと決められたというような反復と、反復の始まりと終わり。

September 7, 2010

20100907 (a)

嘘の嘘。



天空の白と、白と蒼と、青空と重ね着と、重機動の計算機と、手のひらの端末と、それ自身の地図のような街と、街の残骸と、街の残骸に暮らす人々と、さすらいの肌色と、肌の色と、肌の色に被さる繊維の色と、太陽に調光された真昼の深夜と、開けていく眺望に絞っていく焦点。


娘の唇の世の中を表している半開きの呼吸と、かつての未来の記憶のなかで娘に口づけていた男たちが奪っていった世界の形象と、そこに含まれていた彼らの満たされることのない欲望の秘密と、後になって満たされていなかったと気付くことになる欲望の秘密と、嘘の嘘。


隠し事をしているふりをしている朝と、隠し事をしているつもりになっている朝と、隠し事をしているふりをしながら何を隠しているのか分かってはいない朝と、隠し事をしていないふりをしながら実は隠すものすら持ち合わせていない朝と、隠しているうちに忘れてしまったものたち。

September 6, 2010

20100906 (a)

天国の練習と、地獄の実習。



天国の練習と、地獄の実習と、死についての知識の不足と、都市を模倣した目の光りと、言葉を縫う沈黙と、沈黙を縫う言葉と、人の形で抱き合っている文字と、一日の形で抱き合っている夜と朝と、その瞬きのような隙間で薄目を明けている隊商の娘の唇がくわえている小枝と虫の声。


夏と虫の声と、夢のなかで聞いていた声と、声のなかで聞いていた夢と、夢を抱き留めている現実と、手元と足下を確かめている焦点距離と、焦点距離のなかでいつもあやふやな色彩だけの空気感と、口元にあるように感じられない自分の唇と、声にして確かめている唇の形。


唇のかたちで捉えた言葉の響きと、そこから導き出した文字の形と、それに相応しい対象物と、つまりは娘の唇のかたちに相応しいこの世のものの形と、世の中を軽く掴まえている上唇と下唇と、舌先で形を整えた風を送り出す横隔膜と、夜明けを引き絞っている細い喉。

September 5, 2010

20100905 (a)

回想が記憶を追い抜く一瞬。



記憶と回想が競い合う場所で風に涼んでいる娘と、回想が記憶を追い抜く一瞬と、その記憶が刻まれた一瞬が風になり吹き付けている坑道の丘と、乾いた土地の上空を流れる湿った空気と、その真上で爛々と輝いている月と、月明かりを頼りに書き付けられた文字の上に据えられた石。


上空と地表とで色を違える月光と、月光に透ける空の浮島と、水晶のような機構の浮島の骨格と、夜風を呼吸している浮島の野草と、人影にも似た何かと、その人影が眠りの外側で見ている夢にも似たような何かと、人影が眠りの外側で見ている夢の内側で眠っている人影の細かい震え。


月明かりに透けている隊商の娘の首飾りと、季節により首飾りから身をよじらせるようにして小さな花弁を開く植物と、記号の植物と、記号の植物の記号をまとった鉱物と、月に透ける鉱物の記号をまとった種子と、乱雑な順序で季節の花を咲かせる内なる種子を涼ませる夜風と娘の体温。

September 4, 2010

20100904 (a)

判断なのか予感なのか余談なのか判別しがたい明晰さ。



朝焼けに夕暮れの群青を溶かし込んだみたいな寂しさとは別腹の孤独と、判断なのか予感なのか余談なのか判別しがたい明晰さと、熱と似ている夏と、秋と破棄は似ていると思う隊商の娘と、冬に似ている白湯と、春に似ている晴れと夜が霞がかっている晩夏の明け方に茶をすする同時代性。


一日に一度点滅する街の空と、一分に一度瞬きをする酔っ払いと、光りにより切り取られた風景と、転げ落ちた薬莢に詰まっていた一瞬の閃光や、空になった酒瓶に詰まっていた酔いの分だけ覚めてしまった顔面の茜や、茜色の瞬きを重ねながら朝焼けか黄昏かを数えるぼさぼさの髪の毛。


いつか回ってくる勘定を内心心待ちにしている酔っ払いと、今過ごしているこれがひょっとしたら勘定なのではないかという不愉快な憶測と、いつかこの俺にも感情は回ってくるのだろうかという期待にも似た不安と、さもなくばこれが感情なのではないかという不穏さにも似た胸の温かさ。

September 3, 2010

20100903 (a)

「例えば自分が消えても可能性だけはまだ残るのかしら」



片時も絶えたことのない誕生の予感と、それと同じくらいに馴染みの深い白けた絶望と、不思議でも当たり前でもない全てと、柔らかな衝突の感触と、衝突の柔らかな感触と、忘れる事と感じる事が肩を並べる瞬間と、例えば自分が消えても可能性だけはまだ残るのかしらと睫毛を整える隊商の娘。


いつか何かを忘れない時があるのならそれは自分にとっては一番大事な嘘なのだろうと未来の記憶のなかで考えている娘と、入り組んだ虚構を通底する単純な論理と、何かを覚えていることと、何かを忘れたことを覚えていることと、何かを覚えていることを別に覚えてもいない事とを巧みにすり替える作り話。


存在しなかった戦場と、同じく存在しなかった市街戦と、ただひとつ時を通して常にどこかを飛び続けている一発の銃弾と、実際には存在しなかった撃ち手と、その撃ち手を作り出すことによりいつの時代も夜を穿ち続けるその一発の銃弾と、いつかその銃弾に撃ち抜かれることを夢見ている心臓。

September 2, 2010

20100902 (a)

あるものとないもののどちらでも物足りないという過剰。



水筒と旅行鞄と長衣と、火薬と理想郷と現在地と、交易と共有と自生と、櫛と爪切りとかんざしと、さいころと数字と行き先と、地図と風向きと道しるべと、地震と音楽と耳鳴りと、街灯と戦火と星々と、大海と孤島と月明かりと、潮騒と沈黙と息づかいと、一日と昼夜と日付変更線。


押し花のような瞬間と、生け花のような宵の口と、ざわめきの揺りかごで目を覚ましながら夢を見ている情報の交通と、あるものとないもののどちらでも物足りないという過剰と、事実では割り切れない確率と、確率という美しさと、確率により描かれる横顔と、確率により目覚める寝顔。 


無を装った単調さと、混乱を真似た秩序と、翻訳文体で語りかける景色と、九月の光りと、その時に景色として収束したそれぞれの思惑と、その時にその時までいつからか時を越えて伝わっている思惑と、事実に似た何かと、結果に似た何かの原因に似た何かと、無表情に似た何か。

September 1, 2010

20100901 (a)

この酔いはいつになったら醒めるのかという素面な問いかけ。



まだ起こっていないことだけを覚えている隊商の娘と、空の浮島の巡回する径で雲をついばんでいる言葉の魚と、骨董品のような晴れ間と、にわか雨みたいな毛穴と、地図のように見える娘の瞳と、いつも道に迷っているような眼差しと、いつも見えている死。


坑道に差し込む光りと、目を覚ました時にいつもそこにいる誰かと、その誰かとひとりぼっちでいることと、煤けた水を飲む澄んだ血液に棲む言葉の魚のひとひらと、娘の記憶を食べてそれを言葉に換えている魚と、そこに音を与えている娘と、晴れた空の下の青い水たまりの表面を泳ぐ魚。


魚と銃弾を見比べて目を細めている酔っぱらいと、酒のなかを泳いでいる魚と、酒場のなかを泳いでいる酔っぱらいと、いつも心のなかの酒場で飲んでいる酔っぱらいと、飲んだ酒の分だけ醒めていく酔いと、この酔いはいつになったら醒めるのかという素面な問いかけ。