nobody hurts

September 10, 2010

20100910 (b)

「そうだよそこには音があったんだよ」 
「その音を聞いた人間はいなかったんだけどね」



自分と出会った鼓膜が、自分と出会った網膜が、自分と出会った粘膜が、自分と出会った閉幕の合図が、自分と出会った油性の被膜が、自分と出会った弾幕が、自分と出会った水脈が、自分と出会った脈拍が、自分と出会った脈絡が誰かその人自身と出会ったその誰かと出会う。


伝説の二人を捜している一人が、名前すらなく誰かであるということが、流れのように正体を持たないということが、お尋ね者のように招待を待たないということが、空席が孕んでいる期待と孤独が始まりもしない何かが終わってしまったあとで続いているのを眺めている。


そうだよそこには音があったんだよと耳打ちをする伝説の二人の片割れが、でもその音を聞いた人間はいなかったんだけどねと肩をすくめている伝説の二人のもう片割れが、つまりそこに君たち二人が生まれる余地があったわけだなと呟く声がそれぞれの不在をたしなんでいる。

September 9, 2010

20100909 (b)

目覚めも眠りも存在しない明晰な夢。



表の存在しない裏面どうしが、純粋さのない単純な動機が、目覚めも眠りも存在しない明晰な夢が、透明である全ての色が、珈琲の表面の艶や波紋でしかない深夜が、夜明けに似せた優しい表情に緩んだ抱擁のきつさがいつか解けることの安心感をいつまでもそのままの姿勢で望んでいる。


驚きが、喜びが、静けさが、退屈が、嫌悪感が、倦怠が、疾走感が、夏の春が、夏の秋が、錯覚が、実感が、欲望が、情動が、嘘が、恥知らずが、虚ろが、温もりが、予感が、想像力が、緊張感が、春の真夏が、春の真冬が、誰かが確かにそこにあったしこれからはこれから。


忘れないでという声が、消え去っていく声が、予感のなかに満ちていく飽和した現在が、もう今はここにある涼しい風のようなすこし先にあった未来が、そして今もここにある淀んだ空気みたいな過去が、その過去が含んでいた涼しげな未来が現在の平熱をいつまでも保っている。

September 8, 2010

20100908 (b)

心臓から降る雨。



今後の花が、これまでの雨が、水溜りみたいな瞳が、地面のような体が、宙である体内が、心臓から降る雨が、時計盤の中心から広がる波紋が、時間の全方位に対して波立つ盤面が、その時に一瞬流れる電気が、素朴な感電が、感電死しながら生き返る生者の交信が今は内訳を求めない。


相対的に夜であるとも言える昼が、相対的に夕暮れでもあると言える朝焼けが、相対的に春であるともいえる秋が、相対的に桜でもあるといえる紅葉が、相対的に砂浜でもあるといえる雪原が、相対的に主義であるとも言える構造が、相対的に何かであるといえるすべてが無から還る。


時間の流れと見分けのつかない憂鬱が、川の流れみたいな空気が、小川のような路地が、真水のような酸素が、喉元のような曲がり角が、右肺のような部屋が、摘出された左肺のような屋外を手で掲げている少女が、雨樋の血管が、雨樋から垂れる水滴が一本一本髪の毛を描いている。

September 7, 2010

20100907 (b)

なにをもってなにかを不完全と呼ぶか。



丁寧に描かれた無機質の肖像画が、秩序を代表するかのように設えられた危うい均衡が、自ら逃げ道を作った後にそこから逃げ出した逃げ道とその後に残った逃げ水が、逃げることに専念しているうちにいつのまにか何かの追跡に変貌していた疾走が溶け込んだ水道水を蛇口から飲む。


容器に残った麦茶が、容器から逃げ出した麦茶が、体内を循環している麦茶の成分が、もしくはすでに排泄されてしまった麦茶の成分が、なくなったものとしてまだ容器中に蓄えられている空白の体積が、容器の形に成形された空白の体積が数日のうちに酸化させた麦茶を飲む。


なにをもってなにかを不完全と呼ぶかということについての議論が、不完全に不完全であることの可能性についての議論が、不完全に完全にあることについての議論が、それらの議論の不完全性や完全性を巡る議論が来るべきこのような不可測の事態の継続に息を飲む。

September 6, 2010

20100906 (b)

風に灼けた日射しに焼けた壁。



霊感が、反射神経が、忠実なのかどうかすら分からぬ影が、また影に忠実なのかどうかすら分からぬ動きが、その影を生み出しているのかどうかさえ最早定かではない光りが、その光りを遮っているのかすら最早定かではない体が連携を守りながら因果に対して反撃の機会を伺っている。


人称の繰り上がりが、因果に対する最終防衛線が、歴史の最末端が、多分とついた最新の時間が、撤退と猛攻が、石の粘りで踏みとどまる足下で回転を続ける大地が、空を回しているような目眩を一カ所に集中させている人称が現実を担保にいれて曖昧さをこれまでになく取り扱っている。


顔の落書きを反映する骨骼が、筋力と合わさった骨の頑健さが、筋力と骨のたくましさを確かめている張り詰めた肌が、肌と触れあっている風に灼けた日射しに焼けた壁が、壁の重みで今はもう動くことの叶わない天蓋の様式が埃として解けた空気の緊張をいつまでも静かに押さえ込んでいる。

September 5, 2010

20100905 (b)

街に浮かぶ皮膚の波形が速度と静止を同時に見ている。



現実大の実寸が、ひとごみの意味が、ひとりの意味が、意味のない夜空が、驚きと踊る時が、素晴らしい皹が、ある一点から導き出される無数の延長線が、眼差しと眼差しの空中戦が、皮膚の上に描かれる街の波形が、もしくは街に浮かぶ皮膚の波形が速度と静止を同時に見ている。


波形に浮かぶ皮膚が、皮膚に浮かぶ体温が、体温に浮かぶ外気温が、外気温に浮かぶ夏の流速が、夏の流速に洗い流された汗が、汗に洗い流された襟首が、襟首に洗い流された振り返りざまの耳たぶが、耳たぶに洗い流された冷房の風が、冷房の風に洗い流された空が窓に浮かんでいる。


点描で踊る足下が、焦点を探し続ける集中力が、一秒前を追いかけ続けている現在地点を追いかけ続ける前後数秒が、そこに割り込む記憶が、さらにそこに割り込む予測が、さらにそこに割り込む不可測が、さらにそこに割り込む例外とそれ以外が筋肉を流れ続けている。

September 4, 2010

20100904 (b)

賭けに負けて価値に勝つ。



血塗れだよと教えられた水浸しの男が、汗を流しなよと言われた血塗れの女が、紙切れにいい気になりやがってと罵られる金持ちが、白紙には事欠かない絵描きが、理性の過剰に苦しむ狂人が、ものが見え過ぎるために目を潰された生活者が偶然にも氏名として選んだ無関係な一人の人間。


姓名ではなく生命が、声明ではなく清明さが、すべて本文として書き連ねられる例文が、通り名と通りの名前が、そこにある一通りと流れ続ける人通りが、焼け落ちているのではなく燃え上がっているのですという声の欠如のために炎上を選ばざるを得なかった殉教者が賭けに負けて価値に勝つ。


自分は盲人であると何故かそう徹底的に信じ込んで来た見える目を持った男が、その男が視力以外の感覚として養ってきた視力が、その男が景色以外のものとして養ってきたこの世の景色が、優しくされるたびに開く花弁の肌触りであると覚えられた共に暮らす女の笑顔が収束する混沌の先。

September 3, 2010

20100903 (b)

悪意のない美しさ。



時代の名前が、曲名が、雑誌の表紙が、流行の髪型が、新しい革靴が、濁った水の上澄みの軽さと明るさが、写真機と感光紙が、人形の頭が、こわばった綿が、化粧道具が、傘が、肌着が、手紙が、鉛筆削りが、新しい旅券が、焦点のぶれた写真が止められなかった旅立ちと到着。


温度計が、腕時計が、車輪が、背骨が、砕け散ったまま形を保っている午前中が、比喩としての数字が、潮風に洗われている日陰が、波の音を練っている気圧が、走り去っていく自転車の影が、体中のばねが、翼のために蓄えた筋力が、種を湿らせる水分がつなぎ合わせている木霊の通り道。


休日の心臓が、奈落の絶頂が、意地の悪い優しさが、悪意のない美しさが、正解のない不正解が、正面を持たない後ろ姿が、語り手を持たない虚構が、それ自身のなかに千年を持つ一日が、またそれ自身のなかに一日を持たない千年が、落下に抱き留められた世界が浮かぶ泡の破裂音。

September 2, 2010

20100902 (b)

静けさの海のように遠い待ち合わせ場所。



いつもの前線が、予断を許さぬ後日談が、終わってしまった旅が、文字に記されたことのない言葉が、声として読み上げられたことのない言葉が、いつしか意味を求めることを止めた機能が、審美的な機能性が、役割からも分化した機能が、目的に還元されない機能が描き続ける誰かの面影。


何十年も続いている夏が、移ろいやすい確かさが、耳たぶに触れている日差しが、あっというまに乾いていた洗濯物が、冷房のきいた部屋で机の上を片付けている知り合ったばかりの友人が、空になった幾瓶もの容器が、九月の空になった陽気が、湿気を含んだ乾燥した空気が楽しんでいる口元。


生活の旅が、怒りを装った怒鳴り声が、穏やかではない呟き声が、粒の細かい声の欠片が、珈琲の豆を挽いている音が、帳面を埋め尽くす文字や図形が、動的な関係性が、静けさの海のように遠い待ち合わせ場所が、目や耳の副産物が、生存と渡り合う観念が言祝いでいる架空の曲線美。

September 1, 2010

20100901 (b)

言葉を選んでいる言葉。



緻密な影が、乱雑な動きが、滑らかな衝撃が、方向をかき混ぜている勢いが、計算の文法が、点滅している風が、木の枝の巣が、血まみれの果物が、人工物との合いの子が、月日を選んだ時間が、山を分ける道が、川を分ける水が、光りを帯びた影が、第一次情報である全てが囁いている朝。


朝の夏が、暮らしの中の響きが、炎にも似た水しぶきが、摂氏三十度の金属音が、円が保つ緊張感が、回転の安定が、回転の焦点や焦点そのものであるような回転や回転に含まれている点や直進が、直線の周囲を螺旋を描きながら上ったり下ったりしている背骨が確かめている静かな重力。


いい加減な汗が、不確かな涙が、例えば半日だとかの時間をかけて不意に訪れる喜びが、衣服のしわが、筋肉の癖が、感傷的な生き方が、言葉を選んでいる言葉が、なだらかさに含まれる不意の直線が、定められた始まりが、無視された終わりが、熱気に涼む風が吹き抜けていく骨のなかの空洞。